の続編

ここに体験談を書いて懐かしくなったオレは、センセにオレの現状だけでも話せればと思った。
でもセンセの連絡先を知らない。
何か良い方法はないものか…。
考えた末、今年の正月に同級会があった事を思い出した。
その席には、当時副担任のC先生も同席していた。
「S君、お医者さんになったんだって?大したもんじゃない」
「はあ…。別に大したことじゃないですよ」
「でもなかなかなれないじゃない」
「オレからすると、高層ビルの建築で働く人とか、営業とかの方がなれないっすけどね」
「なるほどね。そう思うか(笑)」
「先生は今(中学)どこ?」

「一回抜けたんだけど、またY中よ」
こんな会話をして、C先生がY中にいることを思い出した。

先週の木曜日の昼ごろ、Y中に電話して、C先生に代わってもらった。
「おお久しぶり。どうしたね?」
「ちっと頼みたいことがあるんだわ」
「どんなこと?」
「Hセンセの連絡先、わかんないかな?」
「Hセンセ?知ってるよ」
「自宅だと旦那に出られたらイヤだから、携帯とかダメかな」
「旦那さんはいないよ」
「え?結婚したんじゃないの?」
「したけど…。言っていいのかなあ。離婚しちゃったんだよ」
「え!なんで?」
「それは自分で聞きなさい。本人に許可取って折り返すわ」
「悪いね。じゃあこれ携帯番号」
「H先生にも教えちゃっていい?」

番号を教えることを許可し、オレは返事を待った。
20分くらいして、携帯がなる。
「H先生、番号OKだって。今から言うね」
番号を言い出すC先生、メモるオレ。
「ありがと。助かった」
「今度なんか奢ってね(笑)あ、センセだけど、電話は金曜の夜が良いって」
「了解」
電話を切った。
久しぶりに話せる…。
早くもウキウキだった。
木曜は当直、夜勤のバイト。
まったり指向の病院だから救急な患者は来ないし、飯食って寝てればバイト代。
楽すぎだぜ。
数時間後、寝ていた部屋の電話がなる。
「…はい?」
「先生、急患です。お願いします」
「………へい」

急患は虫垂炎、つまり盲腸だった。
「オペ頼める?」
当直医がオレに聞いた。
お前やれよ…と言えないオレ。
「はい。大丈夫です。じゃあ運んで」

数時間後、オペ終わり帰宅。
ああ、今夜電話するんだったな。
8時頃って言ってたな。
少し寝よう。
大して寝た感じもしなかったが、目を覚ますと20:10…、やべっ遅刻だ。

電話を手に取り、番号を押す。
緊張で指が震える。
どうしても発信ボタンが押せない。
「うりゃっ!」
声で勢いを付けてプッシュした。
2〜3回、呼び出し音がなった。
その音が消える。
「……………はい?」
「あ、あの〜、私Sですが…覚えてらっしゃいませんよね?」
「……………………」
「あ、あのー…」

「久しぶり。元気そうね」
電話の向こうから、懐かしい声がした。
ちっとも変わってない。
「そっちも元気?」
「うん。まずまず。ね、この携帯テレビ電話できる?」
「あ?ああ、できんじゃね?」
「じゃあそれで。顔みたい」
「へい」
テレビ電話でかけ直す。
「もしもし。あ、久しぶり〜。オヤジになったね〜(笑)」
「センセは髪伸ばしたんだな。大人っぽくなった」
「まあ色々あったからねえ。そういえば、聞いた?C先生から」
「なにを?」
「だから、私のこと」
「ああ、それとなくはね。で、今付き合ってる人は?」
「いないいない。一生独身だなこりゃ(笑)S君は?」
「いねーよ。大学入ったら野郎ばっか寄ってくるんだ」
「あはは、寂しいけど良いことじゃん。友達沢山できたみたいね」
髪を伸ばして、顔が昔よりスッと痩せた感じがする。
色っぽくなってる。

「C先生で思い出したけど、S君やったでしょ」
「え?そんな…してねーよ」
「正直に言ってみ。もう時効なんだから」
ニヤニヤするセンセ。
「昔ね。一回だけね」
「バカッ!一回も二回もない!」
「すみません…」
「まあ時効だから許してやるわ(笑)」

この辺りで2ちゃに書き込んだ事をカミングアウト。
「センセさ、GW少し休み取れるから帰るつもりなんだけど、会えない?」
「ゴールデンウィークまでお仕事一杯なの?土日も?」
「明日は休みだけど、来週は当番だな」
「ふーん…私いこっか?」
「え?どこに?」
「そっち(笑)」
ニコニコしている。
「冗談だろ?」
「冗談じゃないよ?行っちゃダメ?」
「良いけど…」
言われた通り最寄りと乗り継ぎを教える。

「……わかったー。明日午前は部活だから、終わったら行く。新幹線のる前に電話するね〜」
「ほい、気をつけて」
「あ、そういえば、今何やってるの?仕事」
「ああ、お蔭さまで医師免許取れました。ありがとね」
「じゃあお医者さん?」
「大きくわけるとな」
「すごーい。頑張ったんだね…偉いね…」
「センセのおかげよ」
「う…うえーん。嬉しいよぅ。良かったよぅ。うえーん」
「泣くなw詳しいことは明日な」
「うん…じゃあ、おやすみ」
鼻をズビズビいわせながら、電話はこんな感じで終了。
あまりの急展開に急いで部屋掃除するオレ。

いよいよ当日。
新幹線乗ります電話で目が覚めた。
出掛ける準備を始めた。
ここにも書き込んでたねw

夕方、センセから電話がなった。
「どしたの?」
「乗り換え分かんない…」
「わかんねーわけねーべ。すぐそこだよもう」
「うう〜」
キョロキョロ乗り換え口を探してるらしきセンセ。
「ああ、もう良いよ。そこまで行くわ」
「え?悪いよ」
「良いから、そこ動くなよ」
「は〜い」

車に乗り、駅に直行。
パーキングに車を停め、駅の出入口へ。
この辺にいるっつってたな…。
携帯にでもかけてみるか。
オレが携帯を取り出したとき、後ろから肩を叩かれた。
振り返る。
「よっ!」
センセだ。
テレビ電話より何倍も可愛い。
「おー久しぶり、何かちっちゃくなったな」
「S君が大きくなったんじゃない?今身長いくつ?」
「178cm…だったっけかな」
「私と30cm違うのか。大人になったね。何かホント、大人の男って感じ(笑)」
「立ち話もなんだし、どっか行くか。腹減った?」
「ううん。まだ平気。あれ?電車に乗らないの?」
駅から出ていこうとするオレに、センセは不思議そうに呼び止める。
「ああ…、車で来たんだ。だから悪いけど一緒に酒呑んだり出来ないわ」
あ、呑めねーじゃん、とその時初めて気付いた。
「へ〜。S君東京で車持ってるの?凄いわね〜」
『凄い』の基準がイマイチ掴めないが、喜ばれたようで何より。
先生のバッグをひょいと持ち上げると、オレは歩き出した。
少し後ろをセンセがトコトコついてくる。
「え?この車?凄い。恰好良いね」
パーキングに着いて、車に近づくと、センセは言った。
「この車、なんての?」
「FD」
「FDってのか」

「RXー7FDってんだよ。もう昔の車で、今のエコ社会の真逆をいくような作りだわな」
「へー。でも恰好良いね。お邪魔しまーす」
オレが助手席を開けたら、センセはペコリとお辞儀をして乗り込んだ。
「メシの予約してあんだけど、ちょっと早いから、時間まで適当に潰せる店へ…」
オレは車をバックさせた。
「凄い。私の車と違って車高低い。スーパーカーっての?これ」
「いつの時代の人間だよw〇〇(オレの地元)なんて車か女くらいしか楽しみないんだし、いくらセンセが疎くても情報入ってくるんじゃねーの?」
「うう〜ん…。そっかぁ。あ、これ走り屋さんが乗る車?」
「『さん』付けるなよwまあそうなんじゃね?オレはただスタイルが好きで買っただけだけどね」

都内の道は、週末の夕方ってこともあり、なかなかの賑わいぶりだ。
センセは久しぶりの東京を、物珍しそうにキョロキョロ見ている。
薄い若草色のスーツが、春のこの季節にピッタリだった。
可愛いなぁ…。
「ねぇねぇ、どこに連れてってくれるの?」
「ん?もうちょいで着くから」
車は青山に到着。
とあるオープンカフェに入るオレ達。
「やっぱ東京はオシャレだね」
行き交う人達を見ながらセンセが言った。
「〇〇(地元ね)にオープンカフェなんて開いても、タヌキか狐くらいしかこねーわなw」
「ひっどーい。そんな田舎じゃないもん!S君だってそこの出身だもん」
「そんな昔の話は忘れましたね。何せもうシチーボーイですからな」
「ぷっ!あはははは…」
センセの笑顔は、昔と何も変わっていなかった。
屈託ないというか、無邪気というか…。
何か優しい時間に久しぶりに巡り逢えたような気がする。

段々夕闇が濃くなった。
久しぶりの再会で、何話して良いかわからんと不安に思っていたが、どうやらそんな心配もなさそう。
「そろそろ時間だし、メシ食べに行こう」
「は〜い」
伝票を手に取るセンセ。
「ああ、良いよ。オレが出すって」
「えっ!ああ…。もう社会人だっけ(笑)…良いの?」
「へい!喜んで出させていただきやす」
「わ〜い。ご馳走様。生徒に初めて奢ってもらっちゃった〜」
はしゃぎっぷりから見て、めっちゃ嬉しそうだった。
カフェを出て車に戻り、恵比寿へ。
「何食べるの?」
「吉牛」
「ええ!牛丼?ホント?」
「しゃーねーな。玉子とみそ汁も付けて良いよ。特別だぜ?」
「そういうんじゃなくて…………。わかった…」
納得するかw

恵比寿にある某フレンチレストランへ。
「…牛丼じゃないの?」
立派な店構えを前に、センセは半ば放心気味に言った。
「そんなに牛丼食べたいなら、移動OKよ。てかむしろそっちの方が財布に優しくてオレは…」
「ここっ!ここが良いっ!」
「へいへいwんじゃどうぞ、お嬢様」
助手席のドアを開ける。
たったこれだけの動作も、センセは物凄く感激してた。
前の旦那、何やってたんだ…。
正装じゃないと店に入れないので、後部座席に置いてあったネクタイを締め、ジャケットを羽織った。
「さ、いこか」
「うんっ!」
二人店の中へ。
通された席は、奥の窓際だった。
「一応コース予約してあるけど、他なんか食べたいものある?」
「よく分からないから、お任せします」

オレは自分の好きな、かつその店自慢の鴨料理をアラカルトからオーダーした。
「車だから呑めないな。ごめん。全く考えてなかったわ」
「あん。そんなこと気にしないで良いよ。私もそんなに呑めないし…」
「じゃあグラスワインで。乾杯だけ口付けるわ」
ということでグラスワインをオーダー。
注文終了。
「S君、いつもこんなお店来てるの?」
「いつも来てたら破産まっしぐらだな」
「でも、さっきのカフェといい、お洒落なお店知ってるのね」
「オレの仕事場は、一年で何千万も稼ぐ方々がウヨウヨいる場所ですよ?寄生虫のようにくっついて連れて来てもらうのさ」
「なるほど(笑)」
「今日、それが初めて役に立ったな」
「またまた〜(笑)女の子連れて歩きまくりでしょ?(笑)」

料理が運ばれてくる。
「うわ〜凄い。美味しそう!頂きま〜す」
パクッ
「んふっ(笑)おいし〜〜」
一品一品に目を輝かせてパクつくセンセ。
可愛かったなぁ。
会えなかった十年近くの間の話などどうでも良かった。
今ここに、目の前にセンセがいる。
それだけで十分だった。
「ん?何見てるの?」
「いやぁ、美味そうに食べるな〜と思ってね」
「ヤダ(笑)見ないでよ(笑)でもホントにおいしいもん」
「そりゃ何より。厨房のシェフも泣いて大喜びだわな」
「またそうやって…(笑)昔と何も変わってないね。変わったのは外見だけね。オヤジになった(笑)」
「ウルサイですよ。黙って食えよ」
「あははは。冗談冗談(笑)でも、大人になったね。昔より恰好良いよ(笑)」

料理も一通り終わり、食後のコーヒータイム。
「あーーっ!タバコ!没収するぞ!停学だぞ!」
「良いじゃねーかよケチくせぇな」
タバコに火を点けるオレ。
「あ、もう吸って良い歳なのか。ごめんごめん(笑)高校のままだった(笑)」
「タバコ吸われるのはイヤ?」
「ううん別に。大学入ってから吸い始めたの?」
「うん。何かちょっとね…」
「不思議(笑)そっか〜。見ない間に変わった部分あるんだね」
のんびりタバコの煙を燻らすオレ。
「失礼致します」
ウェイターがセンセの横にやってきた。
「え?あ、…はい?」
ビビりまくるセンセ。
やっぱ地方の方だからな…。
助けてとばかりにオレに目で合図を送る。

「こちらのお客様より、プレゼントをお預かりしております」
と言いながら、リボンに包まれた木箱を差し出すウェイター。
「え?わ、私に…?」
「早く受け取れよw」
「(ウェイターに)ありがとうございます。(オレに)開けても良い?」
「ここでか?」
オレはウェイターを見た。
彼はニコニコしながら頷いている。
「開けて良いってよ」
センセはリボンを外し、パカッと木箱を開けた。
「あっ!ワインだ!」
「ホントは生まれ歳のワインにしたかったんだけどね。たけぇしさ、歳感じるだろ?wだから会わなかった空白の期間年分熟成のにした。それ飲んで、空白のこの数年も一緒に飲み込んでくんねーかなとねw」
「………………」
センセは黙っている。
「なんだよw」

「…ありがとね。こんなことされたことないよ…」
「またぁ、すぐ泣くのは全く変わってねーな…」
「バカ…。泣かせるような事する方が悪いんだもん。ホントにありがと。会えて良かった…」
この一言だけで、オレは十分だった。
ウェイターが、再びリボンを締め直すといって木箱を持って行った。
センセは暫く鼻をズビズビさせていた。
「さて、次はどこへ行きます?お嬢様」
「…どこでも良い。二人だけでいれるなら、どこでも良いんだもん」
「ほら、わざわざ田舎から出て来たんだからよw行ってみたいとこあるだろ?w」
「田舎って言うな!(笑)んじゃねぇ…。お台場!」

「台場ぁ?マジで田舎モンじゃねーかよw明日ハトバスツアーとかで行けば?w」
「行きたいとこ行ったもん!」
センセは真っ赤だった。
「台場で何すんの?」
「んーと…、あ!観覧車?」
センセは閃いたように言った。
「ああ、はいはいはい…。あったねー。今日風強いし、この辺でも結構強かったから、台場は多分すげーぞ。あそこ風メチャクチャ強いし。観覧車動いてねーかも…」
「それならそれで良い!レインボーブリッジ?渡りたい!(笑)」
「だからハトバスツアーで行けって。おノボリさんにぴったりガイド付きだぞ?」
乗った事ないからよくわかんないけどw
「連れてくの!」
「ほいほい…」

会計を済ませ、店を出る。
センセはワインの入った木箱を紙袋に入れてもらい、大事そうに抱えてた。

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「ね…、ここ凄く高くなかった?」
店を出てからセンセが言った。
「ん?そうでもないんじゃね?」
「テーブルに持ってきたアレ(伝票)いくらだった?私少し出すよ」
ゴソゴソとハンドバッグから財布を出そうとする。
「出さないで良いって。センセは昔この何倍もオレに金使ってるんだから。まだ全然足りないくらいだわな」
「でも…」
「良いから。喜んでくれただけで十分ですよ」
「………ホント?」
「ああ。十分十分」
「じゃあ…、ありがと。ご馳走様でした」
ニッコリ微笑んでセンセは深々とお辞儀した。
「バ、バカ。こんなとこでやめろって」
オレは助手席を開けセンセを急いで乗せると、台場に向かって走り出した。

レインボーブリッジ通過中。
センセは子供のようにはしゃいでた。
「凄いね。あれ東京タワーだよね?」
「んにゃ、あれはエッフェル塔だな」
「田舎者だと思ってバカにして!エッフェル塔はフランスだもん!」
「マジになって答えるなよw」
「あははは。でも…」
「ん?」
「…………綺麗だね〜…」
センセは夜の東京に見とれているようだった。
「何かさぁ…、不思議よね」
「なにが?」
「昔と逆じゃん。私が運転してばっかだったし」
「免許も車も無かったしな」
「それがねぇ…。今じゃねぇ…。教え子の運転する車に乗って、ご飯までおごってもらっちゃった。おまけに高そうなワインまで…。あーーー!私は幸せ者だ〜!」
センセはオレの頭を撫で撫でした。
「やめろって。危ないって」

台場エリアに入った。
「あ、あそこテレビで観た事あるっ!」
「そりゃテレビ局だしな」
なんて会話をしながら、パレッタウン(名前これで良かったっけ?)に到着。
風が強いくせに、しっかり観覧車は動いてやんの。
オレ高いとこ苦手なのに…。
「うわ〜綺麗。大きいね〜」
センセは観覧車を見上げて言った。
夜10時頃だったけど、カップルで一杯だった。
何かオヤジが一人で観覧車乗ろうとして驚いたけど、あとは至って普通の光景だった。
「どしたの?何か口数減ってない?」
オレの横にちょこんと立ち、肘を掴みながらセンセがオレを覗き込む。
「別に減ってねーよ」
「あ!もしかして高いとこ苦手とか?(笑)」
「バカ言うなよ…」
「あははは。苦手なんだ(笑)弱点みっけ(笑)」

うちらが乗る番が来た。
はしゃいで乗り込むセンセ。
仕方なく乗り込むオレ…。
「うわ〜綺麗。凄いよ。ほら見てみ」
外を見るように奨めるセンセ。
「あ、ああ。綺麗だな」
「俯きっぱなしじゃん(笑)」
センセはオレの隣に座った。
「バカ!揺らすな!」
「へ〜。怖いものあるんだね(笑)でも、ありがと」
「何がだよ」
「怖いのに無理して乗ってくれて…。S君、大人になったね。昔よりもっと優しくなった」
「そんなことないけど…」
「会えて良かったなーって、ホントにそう思うよ。電話くれた時、嬉しかった」
「そりゃオレもさ。センセは昔からあんま歳くったように見えねーな」
「センセはやめ(笑)それならS君も今は先生でしょ(笑)」

「でもオレ病院勤務じゃないから…」
「ね。お医者さんって、やっぱ『白い巨塔』みたいにギスギスしてるの?出世争い大変?」
オレの言葉を全く聞かず、矢継ぎ早に投げかけてくるセンセ。
「話を聞けってwオレ医局勤務医じゃねーよ」
「え?何だっけ?」
「メディカルトレーナー」
「トレーナー…ああ分かった!マッサージ師さんか!」
「…それって医師免許なのか?医大に行かなくてもなれるんじゃねーか?」
「じゃあ何してる人なの?」
「…マッサージ師で良いや」
説明すんのメンドクセ。
「ちゃんと説明!」
センセはガタガタと揺らす。
「バカ、やめろって。分かったから!」
オレは必死に懇願した。
「ん!(笑)早く(笑)」
さも満足そうに落ち着くセンセ。
くそ…。

「だから、ケガした選手の状態見たり、試合中の応急処置とか。あと効率良い肉体作りが出来るように、その選手の体質の研究とか…。まあいわゆる『何でも屋』だわね」
「ふーん。外科とか内科とかじゃないの?」
「だから医局勤務じゃねーの(笑)選手の体調管理が優先だから、外科とか内科とか言ってらんねーんだよ」
「へー」
センセは感心した。
でもホントに分かってんのかな…。
「まあ一応研修医の時は整形外科にいたけど」
「おお!整形!顔直したりした?」
「そりゃ美容整形だろ。そこで食いつくなよ。あくまでオレは治療が必要な患者さん相手の整形だよ」
「なーんだ。顔直した事ないのか」
こいつは…。

「バイトしてるって言ってたよね?」
「ああ、当直のバイトな。夜間暇でなーんもなく平和な時が過ごせる病院と、救命救急みたいに一晩中眠れない病院があるわな。」
「え?そんなに忙しいの?」
「ハマると死ねるね。特に忙しいと専門外でも見なきゃなんないから、知識は付くけど」
「癌とか採った事ある?」
「ねーよwオレ食道とか循環器じゃねーって。そういうのは予め予約入れて、ちゃんとそこの病院の医師が切るだろ。オレは、突発性で急を要する、簡単な手術しか内蔵はやった事ないよ」
「ふーん。でもお医者様なんだねぇ…。頑張ったんだねぇ…」
しんみりとセンセが言った。
この人はすぐ泣く。
オレより涙脆い。

「センセがくれたチャンス、ちゃんと生かしたっしょ?w」
「うんっ!偉い偉い」
オレの頭を撫でるセンセは、ホントに嬉しそうだった。
「で、彼女はいないの?電話じゃいないって言ってたけど、ほんと?」
「うん。寄ってくるのは男ばっかでね。モテやしねーよw」
「う〜ん…。結構モテそうだけどねぇ。看護婦さんとかいるじゃん。理想高いんじゃないの?好みのタイプは?」
「いや別にそういうのは…」
「言うの!好きな芸能人は?(笑)」
「…エビちゃん…かな…」
「ああ、あのマックの…。って高いじゃん(笑)」
「そう?センセ似てるじゃん」
「え?うそ…。そんなことないよ」
真っ赤になり否定するセンセ。
でも嬉しそう。

「似てるよ。目と鼻と口変えればそっくりだわw」
「…それって全部変えなきゃダメじゃん。全然似てないじゃん!」
「顔面フルモデルチェーンジwオレやったげようか?w」
「バカ!大っ嫌い!」
センセはガクガクとまたゴンドラを揺らした。
もう頂点は過ぎ、段々地上が近くなってはいるが、怖いものは怖い。
「ごめんごめんwでもセンセはセンセで可愛いと思うよ。彼氏いないんだっけ?綺麗なのにね」
「私も全然出来ないんだよね…一回失敗してからね…」
「聞いたら怒られるかもだけど、何で別れちゃったの?」
「う〜ん…」
センセは少し悩んで、話し始めた。

「年上だったのよ。その人…。なんてのかな。何か背伸びしちゃったんだよね。合わせなきゃ!って。そしたら何か疲れちゃった。それに…」
「ん?」
「その前まで一緒にいた人が、10個も下のくせに結構大人っぽかったのよ。結婚した人は、歳は上だったけど、何か子供っぽくてね。一緒になってから気付いたんだよね…」
「ふーん…」
オレは何と答えていいか分からなかった。
「あの年下と別れてから、私ずっとダメな事ばっかだ…」
センセは俯きながら言った。
抱きしめたい衝動にかられたが、もうすぐ地上である。
「イケナイ事してたから、きっとツケだよね(笑)」
無理に微笑む姿が痛々しかった。
オレ達はゴンドラを降りた。

「次、どこ行きたい?」
ゴンドラを降りてオレは聞いた。
時間は夜11:30前。
「ん。もう十分。後は明日」
「え?明日もどっか行くの?」
「ディズニーシー連れって(笑)」
「やりたい放題かよwんじゃ今日は帰るか」
「うん。運転よろしくお願いします(笑)」
またペコッと頭を下げる。
1時間もしないうちに家に到着。
「わ〜。結構綺麗で大きなマンションね〜」
部屋に入りキョロキョロ詮索しだすセンセ。
「こことそこ(寝室)以外は掃除してねーから入るなよ」
「は〜い」
素直に返事しながらウロウロと家の中を歩き回る。
オレが所属しているチームの選手のサインやら写真を見て、これ誰?などとひとしきり聞き終わった。

「あ、ここ入っていい?」
寝室の向かいにある部屋に入ろうとする。
「だから掃除してねーからダメだって!」
「ふーん。そうなんだ。つまんないの」
ガチャ…。
ドアを開けやがった。
「おい、入るなって」
「もう入っちゃったもーん(笑)わー、凄い!本がいっぱい!これ医学書っていうの?」
ズカズカと部屋に入り、医学書を手に取りパラパラとめくる。
「難しい事書いてあるなぁ。私には理解できませんよ」
「そう簡単に理解されたら困るわ」
「あ、聴診器だ!」
机の横に、昔使ってた古い聴診器を見つけたセンセ。
耳に差し込み、自分の胸に聴診器を当てる。
「ザワザワいってて、何も聞こえない…」

「えっ!それヤバイよ。心拍が弱まっている証拠だよ。何かデカイ病気かも…」
オレは深刻そうに言った。
「ええっ!ついこの前人間ドック行ったけど、異常なかったのに…どうしよ…」
焦るセンセ。
「だから部屋入らない方が良かったんだって。服の上から素人が心拍聞けるかっての。当ててる場所も違うしw」
「え?何?嘘ぉ?もう!全くビビったじゃんか!」
センセはホッとしていた。
「ホッとしたところで、出よう」
オレは退出を促す。
「ん…、もうちょっと…。あ!白衣だ」
研修医を終了したときにもらった白衣が、ハンガーに掛かっているのを見つけた。

「ちょっと着てみて良〜い?」
聞き終わるより早く白衣を着だす。
「おお!女医さんだ(笑)私頭良さそうに見えない?(笑)」
「着なくても頭良いだろ。教師だし」
「聴診器はどうやって持つの?」
こっちの言い分など全くお構いなし。
「こうやって首にかけるんだよ」
聴診器を首にかける。
「お〜!お医者さんになった!はい、どうぞ」
椅子に座り、正面に置いた椅子にオレを座らせようとする。
「へいへい」
「今日はどうしました?」
「ちょっと喉が痛みましてね…」
20代も半分過ぎてるのに、何やってんだオレ…orz
「いけませんね。風邪ですね。ちょっと脱いでみて」
聴診器をどうしても使ってみたいセンセ。
「やだよw」

「ダメですよ。言う事聞かなきゃ。治療できませんよ?」
「あ、何か大分楽になりました。先生ありがとう。それじゃ…」
椅子から立ち上がるオレ。
「もう!ちょっとくらい良いじゃんケチ!昔一杯見せたくせに…」
「昔は昔だろwそんなに聞きたきゃトイレにでも行って自分の胸出して聞いてこいw胸も小さいから脂肪に邪魔されねーし、よく聞こえんぞw」
「あったまきた!(笑)」
センセはポカポカとオレの胸を叩いた。
「悪かった悪かったw言い過ぎたwゴメンゴメン」
「しらないもんっ!小さくても形は良いんだもん!」
まだオレの胸を叩き続ける。
「そうだよな。大きさより形だよなwそう思わねーとやってけねーよなw」
「一言多いっ!」

「センセ、相変わらず変わってねーなwてか昔より子供っぽくなってね?」
「S君が昔より大人になったんじゃないの?(笑)」
「だったら良いなw」
一騒ぎした後、何かしんみりした空気になった。
「あ…これ…」
センセが机の上に立ててある辞書を見つけた。
「ああ、最後にくれたやつな。大学行ってもいつも持ち歩いてたよ」
「へー…」
懐かしそうに辞書を手に取り、パラパラとめくるセンセ。
「大分痛んだね。でもちゃんと使ってくれてたんだね。うれし…」
「だからすぐ泣くなって」
泣いたり笑ったり、感情を素直に出してオレと向き合ってくれる先生がオレは愛おしかった。

その時の気持ちは冷静に書き表せないが、オレは咄嗟にセンセを抱きしめていた。
「えっ!ちょっと!いきなりどしたの?」
苦しそうに驚くセンセ。
「…もう良いだろ?」
「えっ?何が…?」
「センセの期待通りにオレちゃんとなったろ?これからは、まだ何の約束も出来ないけど、オレはセンセのために生きたい」
本音だった。普段絶対に口が裂けても言えないような台詞が、自然に口をついた。
「でも…でもダメだよ…。私バツついちゃってるもん…。ちゃんと綺麗な人とそうならなきゃダメだよ…」
「別に今結婚してるわけでもないし、関係ねーだろ」
「でも…でも…」

「もう、オレの気持ちに応えてくれても良いだろ?」
「私……10も上よ?」
「今更何言ってんだよ」
「もうおばちゃんだよ?若い女の人が絶対良いって。私みたいなのはすぐ飽きるって。手に入らないから、そこに気持ちがあるだけだって。それに…」
「ん?」
「もし私を彼女にしたら、この歳だし、ずっと面倒見なきゃかもよ?重くなっちゃうもん」
「良いよ」
「冗談でしょ?」
「ずっと一緒にいてほしい。側を歩いてほしい。同じ歩調で…」
「…遠距離にもなっちゃうよ?」
「ああ。7月に今のチームと更新あるから、打ち切って〇〇(地元)の病院に入っても良いよ」

「それはダメッ!」
センセは急に強い口調で言った。
「一生懸命頑張って叶えた道だもん!あの時私にだけ話してくれた夢の道だもん!辞めちゃダメ!夢を諦めないように人を救うんでしょ?」
「………………覚えててくれたのか」
「当たり前でしょ!………ん……そうなったら、私が教員辞めてこっち来る…」
「…え?じゃあ…」
「今すぐ来るのは無理だけど…」
「……良いの?」
「…………ん…。じゃあ付き合ったげる。幸せにしろよ(笑)」
センセはオレを見上げて微笑み、ギュッと抱きしめ返してくれた。
オレは一瞬何が起きたのかわからなかったな。

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何が起きたのか理解出来ないながら、体は正直だよね。
涙がどんどん出て来るの。
人前じゃ絶対泣きたくないのに、止まんないのよ。
「ほら。泣かないの(笑)」
センセは指で涙を拭ってくれた。
オレさ、恥ずかしい話だけどワンワン泣いちゃってさ。
何か、やーっと欲しがってた物を買ってもらえた気分ってのかな。
いや、それ以上だったね。
「私の前で初めて泣いたね」
センセもウルウルしてた。
「…私さ、一回(結婚)失敗してるでしょ?今思うとね…」
「ん?」
「神様か何かが、『お前を幸せにするのは、この人じゃないよ〜』って教えてくれたのかもね…。こんなに近くにいたんだもんね…」

「オレも、やっと教師と生徒の枠から外れられたわ」
「ずっと前から外れてたでしょ(笑)」
センセが、オレの頭をポンと叩いた。
長い間抱きしめあってたような気がする。
いつもはすぐ泣くセンセが、この時だけは目を潤ませただけで泣き出しはしなかった。
「センセ、泣かないんだねw」
「あまりに嬉しすぎると泣けないかも(笑)ずっと待ってたのかもね」
「オレ、頑張るから」
「今のままで十分頑張ってるよ。100点満点(笑)」
「5くれる?w」
「あったねーそんなこと(笑)…んっ!じゃあ5上げるっ!」
センセは背伸びして唇を近づけた。
センセと久しぶりのキス。

長いキスだった。
「ふぅ〜。こんな感じだったわ」
唇を離した後、センセがオレの胸に顔を埋めながら言った。
「ん?」
「S君とキスする感触。こんな感じだったな〜って」
「ああ…そだね」
「もっかいチューしよ」
センセは再び唇を近づけてきた。
センセとはそれまでに何回もキスしてきたが、何か、どこか違う感じがした。
何てのかな。
温かいんだよね。
これがホントのキスなのかなって思った。
「…この先、行く?(笑)」
オレを見上げながらいたずらっぽく微笑むセンセ。
いつもなら飛び掛かっていたんだけど…。
情けないんだけどさ、なんかもう放心で動けないのよw

もうさ、体は満足感ってのかな、脱力感なのかもしれないんだけど、ヘタヘタ〜って感じなのよ。
「何か今日はダメかも…」
「ま、焦らなくてもこれからはいつでも出来るもんね(笑)それとも歳くった裸は見たくありませんか?(笑)」
「そんなんじゃないけど…。何かオレ、一杯なんだよ。もう何もいらない感じってのかな。初めてだわ」
「…私、幸せ者だね。今心からそう思った。もっと早く気付けばよかった。正直になっとけば良かったな…。遠回りしちゃったよ…」
センセがオレをギュッと抱きしめてくれた。
「明日、ディズニーシー行くんだっけ?」
「うん!教え子と恩師じゃなくて、彼氏と彼女としてね(笑)ミッキーに自慢するんだ(笑)」

その夜は、申し訳ないが何もせずに寝た。
期待に添えられず申し訳ない。
シャワーを別々に浴びて、同じ布団で寝た。
久しぶりの腕枕。
顔が小さいからか頭が軽いので、長時間していても苦痛じゃない。
髪の毛から漂うシャンプーの香は、うちにある、ずっと使ってるシャンプーなのに今まで嗅いだことが無かったかのように良い香りがした。
心身共に満たされた感じで、オレは眠りについた。

誰かがオレの鼻をつまむ。
こそばゆいような、苦しいような…。
夢から段々現実に引き戻される。
「朝だよ〜ん。起きて〜」
少し目を開けると、センセがオレの鼻つまんでた。

「…ん?もうちょっと寝てよーよ」
オレは摘んだ指をどかすと、また目をつぶった。
3時間も寝てないんじゃなかったかな。
「ダメッ!起きるの!」
更に鼻をグシュグシュ摘むセンセ。
「はいはいはいはい。わかりました」
渋々目を開けるオレ。
「ふふふっ。おはよ(笑)ねぇ…」
「んー?」
「アレ、夢じゃないよね?」
「…あれって?」
「だからぁ、付き合うことになったの…」
「え?そんな事なったか?錯覚だ!これは命に関わる危険な状態だ!」
「もうバカッ!」
センセはオレの頭をポカポカ叩いた。
「ごめんごめんwこれからもよろしくなw」
「…夢じゃないよね?あーーー良かった(笑)」
センセは満面の笑みを浮かべた。
可愛かった。

出掛ける支度を整えて玄関へ。
「車のキー忘れてるよ?」
「え?車で行くの?」
寝てないのに辛すぎる…。
「電車なの?」
悲しそうな顔でオレを見つめるセンセ。
「へいへい。運転すりゃいいんでしょ」
鍵を引ったくるように取るオレ。
「ん?何だその態度は。教師に向かって…」
「都合よく教師出すなっての。行くぞ」
「は〜い」
素直に靴を履くセンセ。

ディズニーシーヘは、日曜ではあったが思ったほど渋滞はしていなかった。
朝食に途中で買った朝マックをパクつくセンセ。
「しかし小さくて細いのによく食うなぁ。どこ入ってんだよ」
「失礼な(笑)」

「楽しいからお腹減るんだもん。はい、あ〜ん」
運転するオレに食べさせてくれた。
「あ、見えて来た!わー久しぶり〜」
某城が見えてはしゃぎだす。
その前に広がる海が、風に煽られ白波を立てキラキラしていた。
「…嬉しいな〜」
ポソっとセンセが言った。
オレだって嬉しいに決まってる。

チケットを買って、園内へ。
子供のようにはしゃぐセンセ。
大人以上にグッタリなオレ…。
こいつのスタミナはどこから…。
「次、あれ乗ろあれ」
どんどん先行する。
「ほら、元気出せ(笑)」
「…少し分けてくれよ」
「ほらほら。歩く歩く(笑)」
背中からオレを押した。

楽しい時間だったけど、時間は刻々と別れに近づくわけで…。
夕闇も押し迫り、園内はライトアップされる。
オレ達は夕食を食べていた。
「(新幹線)何時で帰る?」
聞きたくないが、オレは聞くしかなかった。
「えっ?あ…最終何時だろ…」
オレは携帯で調べる。
「最終は9時半だね」
「じゃそれで…。明日有休取っちゃおうかな…」
昼間にもこんな事を言ってくれたが、オレは返した。
「ダメだって。このままズルズル行っちゃうから。またすぐ会えるでしょ」
「すぐっていつ?」
「そうだなぁ…。ゴールデンウィークもうすぐじゃん」
「すぐじゃないもん!」

「すぐだろ。もう4月も半分よ?」
「や!有休取って明日までいる!」
「そんなに急に取れないでしょ」
「風邪ひいたって言うもん!」
「お前な…w」
気持ちはメチャクチャ嬉しい。
でもダメだ。
これだけは乗ってはいかんと思った。
「お互い社会人なんだから、もうちゃんと考えて行動しなきゃな。将来もちゃんと考えた付き合いをね」
我ながらナイス言い訳。
「う〜ん…。じゃ帰る…。でも寂しいよぅ…」
こんな姿今教えてる生徒が見たら、どう思うだろねw
名残惜しそうに俯くセンセ…。
「じゃあ、今日の思い出に何か買ったげるよ」

「えっ?良いよ。それは悪いって」
センセは必死に首を横に振った。
「そんな。センセはオレにこの何倍も使ったでしょ。」
「金額の問題じゃなくて…。ワインとか高い料理ご馳走してくれたし。今日だって全部出してくれてるし…。悪いもん」
「平気だって。さ、んじゃ何か買いにいこか」
「…ホントに良いの?」
「おう。ネズミだってアヒルだって何だって良いよ。『つがい』で買えw」
「夢が無い言い方しないの(笑)」
二人でグッズショップへ。
「ホントになんでも良いの?」
キョロキョロ品物を見回しながら、センセは言った。
「うん。決まった?」
「あれ…」
指差す先にはデカイクマのぬいぐるみ。

「お、おう。あれか…」
あまりのデカさにビビるオレ。
「やっぱ高いよね。その隣のちっちゃいので…」
「値段じゃなくて、大きさにビビっただけ。遠慮するな。買っちゃえw」
ということで、デカいクマのぬいぐるみ購入。
センセはホント嬉しそうだった。
「これね。プーさんって言ってね…」
クマのぬいぐるみを抱き抱えて歩きながら、センセはウンチクを語り出す。
「ふ〜ん。へ〜。なるほど…」
当然だが、そんなクマに全く興味の湧かないオレには念仏と同じ。
適当に相槌をうった。
普段なら生返事を見抜いて怒ったのに、ウンチクを聞かせたいのか喜びで舞い上がってるのか、一生懸命話すセンセ。
殆ど右から左へ抜けたが、このクマは食い意地が張ってて結構マヌケなヤツだということはわかった。

持っては帰れないということで、宅急便に宅配の手続きをとった。
「ありがとね。寂しくなったらプーさんをS君だと思って抱きつくから(笑)そのためにあれだけおっきいの買ってもらったし」
「え?そんなマヌケをオレに見立てんなよ…。だからネズミとかの方が良かったんだって」
「ネズミって言うな(笑)」
8時半になった。
そろそろここを出なければならない。
「じゃあ、(駅)行くか」
「ん…」
「こっから電車で帰るか?車だと渋滞巻き込まれたらアウトだか…」
「くるま!」
「…へい」
オレ達は車に乗り、ディズニーシーをあとにした。

オレは心のどこかで渋滞を願っていたように思う。
もし新幹線に間に合わなければ、それは帰れなくても仕方無いし、不可抗力だ。
けど、こんな時に限ってスイスイ進むのね。
予定より早く駅に到着。
「…切符買ってくる」
センセはトコトコと切符を買いに行った。
「ただいま。これ、入場券。中まで見送って」
「うん。そのつもりだったけど、自分で買うのに」
「このくらいは私が(笑)」
二人で改札を抜け、新幹線ホームへ。
エスカレーターに乗っている時、急に淋しくなった。
何か、現実的に離れ離れってのが身を襲った。

乗り口に到着。
オレは持っていたセンセの荷物を置いた。
「しかし…こんなに買ったのかよ。デブるぞ。もう代謝も良くないんだから…」
例のディズニーランドのビニール袋一杯に入ったお菓子を見てオレは言った。
「うるさいっ!これはお土産だもん!明日学校に持ってくんだもん!」
顔を赤くして否定するセンセ。
「アアソウデスカ」
「ホントだもん!」
「はいはいwんなムキにならんでもwで、自分はどれ食べんの?」
「ん〜とねぇ…」
袋をゴソゴソやりだす。
「あ!。どれも食べないもん!お土産なの!」
ハッとしてオレを睨む。
素直な性格が本当に可愛い。

新幹線が入って来た。
「あ、来ちゃった…」
センセはぽつりと言った。
「また会えるだろw元気で。テレビ電話もあるじゃん」
「うん…。ゴールデンウィークまで会えない…?」
「来週末はオレ試合でスタジアム当番なんだ」
「地方に行くの?土日両方?」
「んにゃ、土曜の夜だけかな…」
「じゃ、来週も来るっ!部屋で待ってる。………ダメ?」
「ダメなわけないじゃん。でも暇だよ?」
「お料理作って待ってる。S君が昔好きだった料理一杯…」
話してる間にセンセはボロボロ泣き出した。
「何だよw急に泣くなってw」
オロオロするオレ。
「…夢じゃないよね?信じて良いんだよね?」
泣きながらオレを見つめた。

「ああ、やっと手に入れた宝物だからな。そう簡単に手放したり心変わったりしねーよ」
「…………ありがと。私も……」
もうすぐ発車するアナウンスが流れる。
JRがぁぁ!
空気読めやぁぁぁ!
と思ってもどうもできない…。

「じゃ、来週また…」
オレは荷物を持ち上げセンセに渡した。
「ん…。またね…」
荷物を受け取り乗降口を跨ぐセンセ。
周りを見回すオレ。
雑誌とかテレビとかで観たけど、シンデレラエクスプレスっての?最終新幹線の東京駅って、遠距離恋愛のカップルばっかなのね。
あっちこっちで抱き合ってチューしてた。
「やっぱり寂しいよぅ…」
新幹線の中、オレの方を振り返り涙声になるセンセ。
この先もずっとこうなんだろうな…。

「永遠の別れじゃないっしょ。〇年前の別れとは違うんだからw」
「ふぇーん…」
外に出てこようとするセンセ。
「危ないっての。着いたら連絡ちょうだい。数時間後にまた会おう」
「ん…じゃあバイバイのキス…」
オレ、こんなやりたい放題だけど、公衆の面前でキスとか恥ずかしくてダメなんよ。
「ん!キスっ!」
新幹線の中から唇を突き出すセンセ。
オレは周りを見回して、チュッと唇に触れた。
ドアが閉まった。
一枚の鉄板を挟むだけなのに、その距離は永遠と思えるくらい厚く感じた。
センセが涙顔で必死に笑顔を作り、手を振った。
泣くな…、まだ泣くな…。
オレは必死に涙を堪えて手を振る。
顔は笑顔を作りながらも、引きつってたろうな。

新幹線はゆっくりとホームを出ていく。
「元気で。またね」
声は届かないが、センセは口をパクパクさせてそう言ってた。
オレは何度も頷きながら、少し新幹線を追いかけた。
どんどん加速する新幹線。
センセの姿はあっさり見えなくなった。
最後尾を知らせる赤いライトが、放心のオレにやけに飛び込んでくる。
新幹線は緩やかな楕円を描きながら進み、やがてオレの視界から消えた。
ゆっくりため息をつくオレ。
見れば別れを惜しんだ沢山のカップルの一人が、淋しそうに階段を下りていく。
長年思い続けた人と通じ合えた。
こんなに恵まれたヤツはなかなかいないんだ…。
これからはU美と一緒に歩けるんだ…。
言い聞かせるように独り言を呟き、うれしさと淋しさ両方を噛み締めながら、オレも帰宅へと動く見送り客の束に混ざり溶けて行った。

〜完〜

−−−後日談

みんな、最後まで読んでくれてホントにありがとう。
昔の体験談書いてるときはそうでもなかったけど、つい一昨日からの話だし、書いてて恥ずかしくなりながら書き上げました。
今思う事…、縁ってホント不思議だよね。
多分オレがここに書き込まず、ただロムってるだけだったら、きっとU美にまた連絡取りたいとは思わなかったはず。
ずっと幸せにしているもんだと思い込んでたと思います。
みんながオレに勇気をくれ、チャンスをくれた。
見ず知らずのオレを応援して、温かい言葉をかけてくれた。
これがホントに事態を変える大きな展開を生んだように思います。

オレとU美は、昔から付き合ってきたようで、でも正式に恋人になってまだたった数日なんだよね。
これからどうなるかわからないし、遠距離だし不安も沢山あるのが本音。
でもここに書いたように、オレはオレの人生をU美の為に精一杯生きたいと思っています。
彼女もきっとそう思ってくれてるから…。
全くエロ展開にならずに、スレ違い本当にすみませんでした。
みんなの温かい支援に応えられたかどうかわからない。
けど、オレが長年抱いて来た夢が現実となった事、みんなには言葉に出来ないほどの感謝をしていることを書き記し、夢のような2日間の報告を終えたいと思います。
みんな、ホントにありがとう。

ちなみに…、さっきのU美からの電話…。
U:「よっ!元気?」
俺:「昨日会ったばっかだろ」
「冷たい事言うなよ(笑)土曜日さ、どうやって部屋入れば良いかな?(笑)」
「ああ、んじゃ合鍵宅急便で送るわ」
「わ〜い。住所はね…」
メモるオレ。
俺:「んじゃ、長く話すと金かかるから…」
「ん。あ、あと最後」
「ん?」
「またあのエッチな掲示板に報告してるんでしょ?(笑)」
「ん?い、いや…」
「まあ、あれがきっかけで会えたんだし、みんなによろしくね(笑)ホントに好きな人に出会えました。ありがとって言っといて(笑)」
「自分で書けば?」
「やだも〜ん(笑)じゃね。また電話するね」
「おう、じゃあな」
こんな感じでした。

みんなホントにありがと。
今もU美と話してました。
こっちから電話すればU美に負担かからないしね。
みんなお祝いの言葉を寄せてくれた旨伝えると、泣いて喜んでました。
「別に私何もしてないけど(笑)」
とも言ってたけどw何だかんだでキッカケ作ってくれたここの人には感謝してるみたいです。
みんなに感謝感謝です。
フルネームは絶対NGだけど、下の名前は言っても良いといわれたんだけど、ちょっと珍しい名前なので書いちゃうと多分特定されそうだし…。
オレの稚拙で下らない文章に、みんな温かいメッセージありがとう。

特別な事言えるわけじゃないけど、U美とオレだって「教師と生徒」だったわけだし、身分違いっちゃ身分違いだよね?
世間一般では「間違った関係」と認識してる人も多いと思うし。
あの時センセが風邪でクラス名簿持ったまま休まなければ…。
あの時担任がオレにクラス名簿預かってこいって言わなければ…。
あの時センセが部屋にオレ入れなければ…。
数年後にオレがそれを書き込まなければ…。
思えばそのまま絶ち消えてしまう可能性の方が、付き合う可能性よりずっと高かったと思う。
でも付き合えたのは、ここにいるみんなにもらった勇気と、素直に気持ちを伝えた事、そしてタイミングだったような気がします。
身分違いなんて気にする方が勿体ない。
女医さんは結構勉強ばっかやって大きくなった人多いし(見てきたオレの感想ね)、リードの仕方次第じゃないかな?
あんま参考にならない&長文ですみません。頑張って!

歳の差は一番の悩みになるだろうけど、まあ今初めて知った事でもないし、見た目だけは若いからねw
あとはうまく育てていくだけですわ。
日本平って静岡の?エスパルスのホーム?そんな仕事場まで詮索しなくても良いじゃないっすかw
オレが試合に出るどころか表に立つ事もないんだからw
知ったところで何の意味も…。

(明らかな誤字脱字と改行のみ修正しました。また、カテゴリー違いではありますが、シリーズで統一しました)